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 大学院で学ぶ主婦 ~ 松倉由紀さん
   台湾の最高学府、台湾大学の大学院に通う松倉さん。主婦、妻、母親の三役をこなしながら、若い大学院生に混じって勉強に励んでいるという松倉さんに大学院に行こうと思ったきっかけなどを語ってもらいました。

―― 台湾に住むようになったきっかけは?
松倉由紀さん    私は2003年SARS真っ盛りの時期に主人の赴任に伴って台北に来ました。海外赴任は北京、香港についで三度目です。
   海外駐在夫人の生活というと、毎日習い事して、ちょっとその国の言語習って、ランチしてアフタヌーンティーしてエステして、結構孤独に子育てをしながら帰宅の遅い主人達を待つ主婦を連想なさるかもしれませんね。当たらずといえども遠からずでしょうか。
   夫の会社の看板だけの人、知ってる行ってる店やレストランの数だけが自慢の人、駐在年数の長さだけが自慢の人なんかもいます。でも実際その国の歴史文化社会に踏み込んで理解しようと学んでいる人やそこの社会に入り込んでいる日本人って少ないのではないでしょうか。

―― では松倉さん自身はどうなんでしょう?
   前回までの赴任は子供の付き合いの柵もあり自由が利きませんでしたが、今回は主人と二人きりです。東京での仕事も辞めることになったので、せっかく台湾に来るのだから、あとで何も残らないつまらない生活はまっぴらごめんだと思いました。
   私達駐在夫人はビザの関係で現地で仕事もできないし、ならどっぷり台湾に浸かってやろう、これからの人生の展開に繋げるためにも本格的に中国語を勉強しなおして台湾の大学院でるぐらいやってみようじゃないかと決心して台北に来ました。
   もういくつだからとか、あなたはこういう立場だからとかいう理由で、こうしてはいけない、こうしろという考えは全くナンセンスだと思っています。

―― それでまずは中国語の勉強から始めたというわけですね?
   はい。師範大学の中国語センターに午前中毎日、週二日は午後別の語学学校に通い、残りの午後は台湾の友人と大学近くのカフェで夕方まで言語交換するという日々でした。
   日本人会の役員もしましたが、中国語上達のために日本人とのお付き合いは最小限にしていましたね。

―― 大学院では何を専攻されているのですか?
   もともと政治社会学系に興味があり、台湾のエスニックマイノリティー問題や企業体質等をテーマに研究しようと思い、三年後の2006年に台湾大学の国家発展研究所(研究科)に入学しました。現在修士二年目です。
   学科の単位は全部とってあと論文のみを残しています。人と違うことをしていると日本人社会からはじかれるといいますが、実際は賞賛と応援を沢山いただいていて、今は卒業しないとまずいぞというプレッシャーでいっぱいです。(笑)
   こちらでは「活到老學到老」(人生死ぬまで勉強)といいます。今、学歴のためでなく勉強したいことを勉強する喜びを味わっていますし、まだまだ自分の人生攻めたいと思っています。卒業したら、台湾に恩返しができるようなことがしたいですね。台湾の素晴らしい友人達は一生の宝と思っています。

―― 苦労していることなどはありますか?
   やはり台湾で一番優秀な学生達が集まっている台湾大學ですから、40歳過ぎた私が彼らと一緒にそれも彼らの言語で勝負するのは苦しいの一言でしょう。
   彼らにかないっこないのですから、まして社会学系は英文資料が多く、毎週一科目につき30ページ以上の英文資料を読み、授業での討論は中国語、期中プレゼンや期末レポートも中国語。英語でごまかす外国人院生も多いですが…。
   ですから期末は徹夜します。手を抜こうと思えばいくらでも手を抜けますが、学歴だけが欲しい学生とは違い、私は勉強すること自体を楽しんでいる身分なので、苦しみながら楽しんでいます。

―― 若い人たちとのジェネレーションギャップなどがあるのでは?
   天真爛漫な性格のおかげでしょうか、他の学生達との年齢差はほとんど気になりませんね。彼らも同等に接してくれます。一緒に遊んでKTV(台湾式カラオケ)に行って飲んで歌って食べてます。勉強以上に楽しいです。
   時々人生や恋愛の相談を受けます。台湾の親は教育熱心で、相当子供の生活にも干渉しているようです。院に入るまで彼氏を作るのが禁止だった女の子なんか、勉強ばっかりしてきたんだなと思います。
   みんなでランチしようと思ってもお昼ごはんはママが作って待っているからと自宅に帰る男の子、ちょっとびっくりですよね。娘を大学院に合格させるために数年前から母親が聴講し、教授とこね作ってなんてケースもあるんですよ、孟母三遷もちょっと行き過ぎですよね。日本じゃ考えられません。

―― やはりいろいろと日本と違う部分も多いみたいですね?
   そうなんです。華人社会では子供は親や家のもの。日本人のように役立つ人間に育てて社会にお返しする存在ではありません。ほとんどの学生が大學に進む状況で学歴偏重の台湾では院卒でないとまともな就職ができない、かつ男性は兵役もあるので、実社会に出るのが30歳近くなんて人がざらにいます。若いエネルギーと人材を無駄にしているなと思います。
   台湾の学術界は権威主義的、人脈や政治色も日本より絡むので結構複雑です。アイデンティティの話題はタブー。台湾のエスニックとアイデンティティをテーマに論文を書くつもりでしたが、政治と絡めるのなら指導教授にはなれないといわれましたね。ですから政治色のない企業の社会責任(CSR)をテーマに変更しました。教授も学生達も台湾の青(国民党系)か緑(民進党系)かの問題は以前よりデリケートになってきています。

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